vol.013 – YURI WAKAMORI / BERLIN

住みやすいのはパリだけど、アーティストやフリーランスとして何かを始めるにはベルリンがやりやすい

Imhereがお届けする、海外で暮らす気になるあの人。vol.13は、フラワーアーティストのYURI WAKAMORIさん。東京からパリへ移住、そしてベルリンへ辿り着いた彼女が思う都市の違いや、ベルリンでのアーティスト活動のお話など、彼女のライフワークをちょっとだけ覗かせて頂きました。

 

「大学時代からフランスの花屋で働いてみたいと思っていたので、思い切ってフランスへ」

 

友人から素敵なフラワーアーティストがいると聞いて、お話できるのを楽しみにしてました。今はベルリンで活動しているとか?

はい、ベルリンです。もう、かれこれ2年半ちょっと経ちました。 

 

その前はフランスにいたと聞きました。

そうです、彼が料理をする人なんですけど、お魚を捌くのが好きで、たまたまドイツに仕事の求人がたくさんあったので、彼と一緒にパリからベルリンへ移住しました。というのも、日本からパリへ移住する時は、彼が私の意見を尊重して付いて来てくれたので、今回は彼の方から「一緒にベルリンへ来ない?」と誘ってくれたのがきっかけ。それまではドイツで暮らすという選択肢はなかったです。

 

パリでの作品

 

そうだったんですね。パリへ行ったきっかけは?

大学卒業後、日本の花屋さんで働いていたんですが、その頃から「フランスの花屋さんで働いてみたいな〜」と思っていたので、思い切ってフランスへ行ったんです。そして、フランス語を勉強して、パリの花屋で働いていたんですが、VISAが切れちゃうタイミングで、当時のフランス人の彼も日本に住みたいという気持ちがあったので、一緒に日本へ戻ることにしたんです。

でも、日本では彼との関係がうまくいかず・・・。だからパリへ戻ろうと決めたんですが、そのフランス人の元彼と距離を置きたい、という気持ちもあって、パリへ行く前にリゾートバイトをやったんです。そこで新たに今の彼と出会い、彼も日本から出たいということで、彼がフランスへ付いて来てくれました。だから、今度は私がベルリンへ付いて来ました。

 

なるほど、パリにはどのぐらい?

トータルで4年ぐらいかな。初めの2年間は学生ビザで語学学校へ行って、その後は花屋で働いていました。2回目にパリへ戻った時はワーホリビザで彼と一緒に1年くらいパリに住んでいました。そしてビザが切れるタイミングでベルリンへ行きました。ドイツは、30歳の時に取れるいわゆるギリホリってやつを使って。

  

日本のお花屋さんで働くようになったきっかけは?

実はそれがあまりなくて(笑)。花屋になりたいとは全く思っていなかったんです。ただ、当時雑誌のcancanが流行っていたんですよね。だから花束につけるリボン(ループリボン)とかが結べたら何かの役に立つかなと思って。たまたま大学の駅にある花屋がアルバイトを募集していたので、そこで働き始めました。偶然です(笑)。

もともと、何かを作る仕事をしたいとは思っていたんです。美容師にも興味があったので、大学卒業後に美容の専門学校へも通いました。そして、美容学校時代に、自分が何かを作り出すための手段として「花」が一番合うと気付いて、それからは、「花」が私の道だと思って花業界に入りました。

 

今住んでいるベルリンってどんな街?

そうですね。ベルリンって社会と人が日本に似ているような気がします。全体的にルールが重要視され、生真面目なシステムがある上で、人はみんな自由でハッピー。なんだか2つの社会で成り立っているのがベルリンな感じ。

 

マウアパークで絵を描く人たちに紛れて花をスプレーで染め中。

 

というと・・・?

フランスみたいにデモやストライキを起こして「社会を絶対変えていくぞ!」というよりは、デモもするけど、自分達で絶対に変えてやるって言うよりは、全てを踏まえた上で、ヒッピーみたいにシンプルに自分達の平和や幸福を追求しているのがベルリンな感じ。

 

例えばどんなところ?

他のヨーロッパの人たちからすると、ベルリンって、フリーダムで、クラブ遊びをして自由な感じに見えているかもしれないけど、実際はかなりシステムがしっかりしている国だと思う。これはイタリアへ遊びに行ったときに感じたことだけど、例えば電車で無賃乗車をしたとすると、フランスやイタリアの場合は「情」が通用して、お金を持っていなくて、買えない理由を説明したら見逃してくれる場合があると思うんです。でも、ベルリンは絶対にダメ! 情が一切通じなくてロボットみたい。だから不思議で矛盾を感じます。

 

「考え方が合って住みやすいのはパリ、アーティストとして何かを始めやすいのはベルリン」

 

なるほどー。フランスと大きく違うところはどんなところ?

ん〜、フランスは社会が存在する前に個人が強くて、「自分達で変えていくぞ!」 と言うのがフランス。だからこそ、街でも、花屋でも、コンペティッションみたいなものがあって、みんながジャッジして、いろんなことに対して良いか悪いかの意見交換をする、そこが全然違うと思う。

 

どっちが住みやすい?

考え方が合うと言う意味ではパリの方が住みやすいけど、アーティストやフリーランスとして何かを始めるには、ベルリンがやりやすいと思う。「住みやすい」と、「やりやすい」の違いかな。ただ、この先もずっと住み続けるという意味ではベルリンは良いとは思いません。と言うのは、自分を見つめるとか、誰にもジャッジされずにやっていくのは人生において良いことだと思うのですが、続けていくことや、将来のことを考えると、パリのような人に評価をされる街で、自分を高めて行くことも必要だと感じます。

 

「住みやすい」と、「やりやすい」の違いですね、ベルリンでは実際どんな活動を?

私は花屋がベースなので、レストランやクラブなどへ定期的な装花に行ったり、イベントやパーティで装花をしたり、アーティストとコラボレーションをしたりしています。今もずっと続けているのはFive Elephantの仕事で、コーヒー会社として名も知られているブランドにも関わらず、営業に行った時に無名の私の言葉に耳を傾けてくれたり、フラワーデザイナーがたくさんいるにもかかわらず、個人の私に依頼してくれているのは嬉しいことです。

 

初めて担当したベルリンのクラブの装花。花は全てスプレーで着色して、クラブに馴染むストリートアートに。

 

どんなお花を飾っているの?

顧客に合わせてドライフラワーや生花を使ったブーケを作っています。それぞれお店の持つイメージを盛り込みつつも、季節感も感じられるようなブーケです。ロックダウンで店舗が使えなかった時期は、ポップアップもさせてもらっていました。

 

ポップアップはお店と直接交渉したとか!? すごい!

逆に何も知らないから行動できて、お店へ営業にも行けたんだと思います(笑)。ちょうどロックダウンの時にベルリンへ来て、正式に登録をして今の仕事を始めたんです。営業って言ってもよくわかんないし、今できることってポップアップだと思って、スペースを探して交渉して、もともと営業している店舗の半分を借りて展示をやったのが始まりです。

 

大胆ですね。

いやいや、そんなことないです。それ以外、道がなかったんだと思うし、何かやりたかったんだと思います。一番最初のロックダウンの時ってみんなどうしていいかわかんない状態だったと思うから。だからポップアップをやれば、お店の前を通る人が見てくれるかと思って。

 

「花をオブジェとしてだけでなく、何か違う存在として捉えてもらいたかった」

 

バレンタインデーに駅のホームにお花を飾っていましたよね、とっても素敵でした。

はい、アーティスト活動もしていて、「proof of your love(愛の証明)」というインスタレーションをやりました。駅のベンチに花を1本1本挿して「あなたのLOVEのために持っていってください」と。花という存在がただのオブジェじゃなくて、何か違う存在として捉えられないかと思って。何かコンセプトを持って表現していきたいと思っているんです。

 

バレンタインデーの時のプロジェクト「proof of your love」。

 

すごーい!!アイデアがロマンティックですね

ありがとうございます。本来、人は飾るために花を買うけど、ダンスだったり、本だったり、ただの観賞用ではない見せ方をしていきたいです。

 

素敵な発想。

小さい頃から空間をよく見ていて、ベッドに入ってからも「家具の配置はこうしたらもっと面白いかも」と思いつきで、夜中に家具を移動させていたんですよ。今思うと迷惑な話ですよね(笑)。「物」を動かしたら同じ「物」でも、違う雰囲気になるという感覚が今でもあって。例えば、何かをダサイとて思っても、そのダサさは、違う場所に置けば面白くなるかもしれないというように色々な「物」の見方ができるようになりたいと思っていました。だから、強い自分のスタイルがあるというよりは、何があったら面白くなるのかを一番に考えています。

 

すごく納得かも! 駅のホームに花束あったら面白いです。

花が綺麗なのは当たり前なので面白さがある方が好き。そう思わせてくれたのがパリの花屋の同僚です。ここの同僚たちはすごく才能がある人たちで。彼らに出会う前までの私は、一般的にいいと思うものが良いと思っていたし、面白いものを追求しようと思っていなかったんです。

でも、同僚の一人に「この花でブーケを作ろうと思うんだけど、どう思う?」と聞いた時に、「こっちを入れた方がブーケは面白くなるんじゃない?」って言われたことがあって、私が「良い!」って思う同僚たちの作品はいつもどこか面白いんだ! と気づいたんです。この頃から面白いものを追求するようになりました。

 

ベルリンで2年と少し活動してみてどう?

山あり谷ありだけど、こんなもんかなって思いながらやってます(笑)。やりたいこと、思うことをやって。常に営業しながら生活している感じです。

 

Kink restaurant で行われたシークレットイベントの装花。テーマはless ordinary。妖艶でかつ少し毒のある雰囲気に仕上げました。

 

楽しそうなのが伝わってきます。

今まで花屋だったので、お客さんが何をやってる人か知ることがなかったけど、今は一緒に作品を作るカメラマンさんだったり、ライターさんだったりと知り会えるようになって嬉しいです。そこからどんどん繋がって、いろんな人とコラボレーションができて、やりたいことができるのが楽しい。

 

逆に大変なことは?

他の場所で同じことをやったことがないので、比べられないですが、やっぱり言葉かな!? 海外で暮らしている人みんなだと思うけど、言葉がわからないからやりやすいところもあれば、すぐにわからないストレスもあって。私の場合は、英語よりフランス語の方を多く勉強したし、現地にも長くいたからフランス語の方が得意で、でも今は英語でがんばっています(笑)。

 

こちらもKink restaurant のシークレットイベント。イベント2日目は、外にDJブースを移動してワイルドにラフにかざりました。

 

そうですよね、フランスはお気に入りの場所ですもんね。

いわゆるキラキラしたフランスが好きってよりは、どちらかというと、批判的でクセ者が多い感じが好き。ドイツ人ってみんな親切で、きちんとしていて、いい人なの。でも私はきちんとしているわけでもないし、いい人でもないから、癖がある人の方が面白いなーって思う(笑)。だからクセ者揃いのフランスの方が楽しいのかも(笑)。

 

イタリアもそうだけど、問題児多いですよね(笑)。

多い多い(笑)! そっちの方が好きなんですよ、優等生より。

 

確かにドイツ優等生かも。

本当にそう、例えばゴミ出しひとつにしても、ドイツだと「こういう間違いがありました」と写真と一緒にいちいち張り紙されたりするんです。イタリア人とかフランス人ってヒステリーでも、割と大らかじゃないですか(笑)。

 

今後の予定やエキシビションなど予定があればぜひ教えてほしい!

普段、花がコラボレーションしない分野と関わっていくことです。例えば、エディターの友人が書いてくれる物語に私がセットデザインという形で表現したり、普段は関わらない「論文」とコラボレーションをして新しい表現をしたり、ダンスや舞台などジャンルを超えてコラボレーションをして「花」が持つ可能性を見せていきたいと思います。

 

【プロフィール】

Yuri Wakamori     >>Instagram

法政大学現代福祉学部卒業。大学時代からアルバイトで花仕事に関わり始めるがヘアメイクを勉強するため資生堂美容技術専門学校に入学そして中退。その後渡仏し「Flower.fr 」「OZ garden」「L’arrosoir」にて修行し、ベルリンに渡りフリーランスのフラワーアーティストとして活動を始める。

@coeurd_gallery

@fleuri_arti

 

➖➖MEDIA INFORMATION➖➖

>>Im here magazine

2020年、ニューヨーク、ハワイ、イタリア、それぞれの場所を拠点に生活する3人の女性が立ち上げたウェブマガジン。現地のライフスタイルはもちろん、世界各国へ移住した人たちにフォーカスした「気になるあの人」のパーソナルなライフスタイル情報をインタビューを通して自分たちの目線でお届けしています。

 

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